東電福島第一原発事故で放出された137Csは,その一部が東日本の広範囲,特に福島県の市街地,農耕地,山林を汚染し,原発の近隣住民に避難を強いると共に,多くの人々の生活に直接的,間接的な影響を与えています.原発事故後,比較的沸点の低い137Cs (678 ℃)は,CsI等の形の粒子等として大気中に放出されましたが,事故後2~3年で土壌が陸上での137Csの最大のシンクとなっていると考えられます.137Csはγ線 (662 keV) を放出するため,土壌表層に存在した場合,周囲の生態系を外部被ばくさせます.一方, 遊離形のCsは植物に吸収されやすく,土壌中に137Csが多い地域では植物および草食動物が体内に137Csを取り込むことも知られています.こうしたことから,土壌中でのCsの振る舞いを知ることが重要になります.
本研究では,事故後福島県で採取された土壌試料を用いて,逐次化学抽出とサイズ分画から,土壌中の放射性セシウム(137Cs)の化学形を評価しました.また,得られた結果を,土壌中に元々存在していた安定セシウム(133Cs)のものと比較することで,同位体平衡の点から,将来的な放射性セシウムの化学形の変化に言及しています.
137Csは主に強酸溶解性画分と抽出残差に多く抽出され,また,比較的粒径の小さなシルト,粘土画分 に含まれていることが分かりました.また,X 線回折より, これらのサイズ画分が雲母様鉱物やカオリンを多く含有することが分かりました.そして, 各画分における137Csと雲母様鉱物濃度には正の相関が有り, 雲母様鉱物が土壌における137Csの固定化を担っていることが明らかになりました. 逐次抽出における放射性セシウムと133Csの比は 強酸溶解性画分において小さく,137Csの分布が完全には平衡になっておらず,将来的に,粘土鉱物へのゆっ くりとした固定化がさらに進行することが示唆されています.
Saito, T.*, Makino, H., Tanaka, S., “Geochemical and grain-size distribution of radioactive and stable cesium in Fukushima soils: implications for their long-term behavior”, J. Environ. Radioact. 138, 11-18 (2014).