腐植物質に代表される天然有機物は炭素骨格上に複数の活性な官能基(カルボキシル基やフェノール性水酸基など)を有しており,アクチノイド元素や重金属を結合させることで,それらの移行性や生物学的利用能に大きな影響を与えることが知らています.これまで,このような天然有機物に関する研究は,主に,土壌や河川などの表層環境から抽出・精製された有機物を用いて,行われてきました.本研究では,日本原子力研究開発機構幌延深地層研究センターの-150 mの堆積岩系地下水から抽出した腐植物質を対象に,物理化学的な性質の評価と幅広い条件での銅イオンの結合挙動を調べました.特に,深部地下水中の腐植物質への金属イオンの結合に関する詳細な研究は世界でも初のここみです. 幌延の腐植物質は比較的硫黄と脂肪鎖に富んだ構造を有しており,そのサイズは,表層の腐植物質とくらべて,小さいことが特徴です.また,金属イオンの結合を担うカルボキシル基の含有量は,表層環境由来の腐植物質のものと同等かそれ以上にも関わらず,銅イオンの結合量がかなり小さくなることが分かりました.これは,特に,比較的低いpHにおいて,炭素骨格上に疎に分布したカルボキシル基が多座配位をすることなく,1:1で,銅イオンに結合していることによるものと考えられます.また,放射光における広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定から,低pHにおいて,一部,硫黄が銅イオンへ配位していることも分かりました.この結果は,幌延腐植物質に豊富な硫黄がチオカルボキシル基(R-COSH)のような官能基を構成し,金属イオンとの結合に関与していることを示唆しています.
本研究は,一部,日本学術振興会 若手研究B(25820446)の助成を受け,日本原子力研究開発機構バックエンド研究開発部門との共同研究として,実施されました.
Saito, T.*, Terashima, M., Aoyagi, N., Nagao, S., Fujitake, N., Ohnuki, T., “Physicochemical and ion-binding properties of highly aliphatic humic substances extracted from deep sedimentary groundwater”, Env. Sci. Process. Impact 17, 1386-1395 (2015).