背景
2011年3月の東京電力福島第一原子力発電所事故で環境中に放出された放射性核種によって,東日本,特に,福島県の広範囲が汚染された.居住地域の大部分の除染は完了しているが,大部分の森林,山間部は手つかずの状態である.森林や河川環境中での放射性Csの分布の変化を予測するためには,Csの環境動態の理解が不可欠である.Csは雲母様鉱物に選択的に吸着することが知られているが,その移行性,生物学的利用能は,このうち,液相中の共存陽イオンと容易に交換可能な成分(置換活性成分)の脱離挙動によって支配される.本研究では,微量金属イオンの置換活性な成分をサンプリングする装置であるDiffusive gradients in thin films (DGT)を用いて,福島県内の水環境,土壌環境中の137Cs置換活性成分をその場評価している.
研究内容
研究では,まず,水環境と土壌用のCs DGTデバイスを構築し,その環境適用性を評価した.その後,福島県の河川水,および,土壌環境に適用した.河川への適用結果から,137Cs置換活性成分が溶存濃度を超え,137Csの動態が懸濁物質からの脱離によって規定されていることを明らかにした.また,土壌環境への適用結果から,137Cs置換活性成分が不均質に分布しており,置換活性成分を豊富に含む粒子状の土壌成分が存在することが分かった.また,深さ5 cm以深で,置換活性成分の割合が増加することも明らかになった.