メソポーラスシリカへのEu3+の吸着

時間分解レーザー誘起蛍光分光法(TRLFS)を用いて,非多孔質シリカと比較して,空隙分布の異なるメソポーラスシリカに対するユーロピウムイオン(Eu3+)の吸着状態を分析し,非多孔質シリカへの吸着と比較した.PARAFAC(parallel factor analysis)による多変量解析により,Eu3+の異なる化学種の蛍光スペクトルへの寄与を分離し,各化学種に対する空隙径の影響を明らかにした.その結果,Eu3+の吸着が少ないpH6以下では,Eu3+は主にシリカと外圏錯体を形成することがわかった.このpH領域では,ナノサイズの空隙内で水和構造の歪みと水和数の減少が示唆された.pHの上昇とともにシリカの溶解によってケイ酸イオン濃度が増加すると,Eu3+はシリカ/Eu3+/ケイ酸三元表面錯体を形成する.ナノサイズの空隙内では,電気二重層の重なりによりケイ酸イオンの濃度が低下し,三元表面錯体の形成が阻害される.さらに,pHが増加すると,メソポーラスシリカ表面でのみEu3+多核錯体が形成された.単位表面積あたりのEu3+の吸着量はメソポーラスシリカと非多孔質シリカで差がなかったため,これらのナノサイズの空隙に特化した吸着挙動はマクロな吸着実験だけでは明らかにできなかったものである.今後,メソポーラスシリカを用いたランタノイドイオンの吸着に関する研究において,ケイ酸塩錯体の影響を考慮することが不可欠であると考えられる.

Murota, K., Aoyagi, N., Mei, H., Saito, T., “Hydration states of europium(III) adsorbed on silicas with nano-sized pores”, Appl. Geochem. 152, 105620 (2023).